着物の着付けにまだ慣れていないとき、衿を左右どちらから合わせるのかわからなくなってしまうことがあります。
洋服と違って、和服は着付けの方法が複雑で覚えることが多いため、たまにしか着る機会がない人は忘れてしまっても無理はありません。
ただ実はこの衿合わせを間違ってしまうと、和服の世界では大変に縁起が悪いものとされています。
特に着物はめでたい日に着ることが多いので、そういった残念な事態は絶対に避けたいところです。
そこで今回の記事では、そういった大切な日で失敗することがないように、正しい着物の着方とその覚え方についてご紹介していきたいと思います。
着物は右前で着る(左前はNG)
まずはじめに結論からお伝えすると、着物を着るときは自分から見て右側の衿を先に、左側の衿を後であわせます。
このような着方を右前といい、着物の正しい着方とされています。
これとは逆に左の衿からあわせる着方を左前といい、こちらは先述した通り縁起の悪い着方として避けられているので、正確に覚えておくようにしましょう。
またこれら右前・左前と似た言葉で、上前・下前という言葉についてもご説明しておきます。
上前とは衿をあわせたときに外側になる部分(通常は自分から見て着物の左の身頃)のことで、下前は内側になる部分(通常は自分から見て着物の右の身頃)になります。
以下の動画をご覧いただくと、衿合わせの順序が丁寧に解説されているので、文章だけではイメージがわかないという方はご覧いただくと良いでしょう。
また動画のように右前であわせるとき少しだけ持ち上げてあわせるようにして、そのあと左の身頃をあわせると先に合わせた右の身頃がうまく隠れて、着物がきれいに着れるようになります。
また両方の身頃をあわせ終わったあと、着物の背中心ラインが背骨とまっすぐ沿っているか確認してみましょう。
きちんと沿っていると着物が左右対称にととのって、きれいな着付けができるようになります。
右前の簡単な覚え方
着物の正しい着付け方法は理解できても、いざ自分でするときに忘れてしまっては意味がありません。
そこで続いて、右前の覚え方についてご紹介していきます。
3つほどよくいわれる簡単な覚え方があるので、一緒に見ていきましょう。
時間的に先に重ねるほうが前
「着物は右前で着るもの」と覚えても、自分と相手どちらから見て右のことを指しているのか、改めて聞かれると混乱してしまうことがあります。
ネットやSNSでチェックしようと思っても、最近はスマホカメラで自撮りすることが多いので、写真で見たときには逆になってしまっていることもあります。
そこでおすすめの覚え方として、着付けをするとき「時間的に先にあわせるのが自分からみて右側」だから右前とおぼえておけば、正しくあわせることができます。
出来上がった襟の形が「y」の字
実はもっとわかりやすい覚え方があります。
着物を正しく右の身頃から着ると、ちょうど上の写真のようにできあがる衿の形がローマ字の「y」になります。
着付けのとき順番に迷ってしまったら、鏡に写った自分を見てみて、「y」の字ができているか確認すると間違えずに着付けができるでしょう。
右利きの人が着やすいようになっている
着物は正しく右前で着ると、右手で懐に手を入れやすくなります。
ご存知のとおり昔も今も右利きの人が多数だったため、着物の着方も右利きの人が使いやすいようになっているとも考えられています。
こういった由来についても覚えておくと、こんがらがってしまっても思い出すことができそうですね。
着物の左前が避けられる理由
ここからは興味のある方だけが対象になりますが、なぜ左前が避けられるようになったのかということもあわせてご紹介していきます。
少し前のことですが、タレントの紗栄子さんが着物姿をブログでアップしたときに、「着付けの仕方が左前だ」と炎上していました。
その後スマホカメラで取ったことによって反転していたと弁明していましたが、ブーイングが収まらなかったことは記憶にも新しいです。
なぜそこまで炎上することになってしまったのか、着物について詳しく知りたいという人は読んでみると面白いと思いますよ。
左前が連想させる死装束
まず最大の理由として着物の左前は、お葬式で亡くなった方が着る経帷子(キョウカタビラ)と同じ着方であることから、死人を連想させるとして縁起が悪いとされています。
なぜ亡くなった方に左前で着せるのかというと、死後の世界は現世と逆の世界であるため、着るものも現世とは逆になるためだそうです。
またお釈迦様が左前で着物をお召になっていたため、死後は同じく左前で着せるという説もあります。
ただいずれにしても左前は死人を連想させるため、縁起が悪いとして避けられており、縁起が悪いことや調子が悪いことを左前と表現することもあるそうです。
右前のきっかけになった衣服令
続いて歴史的な背景から左前が避けられるようになったお話を紹介します。
奈良時代まで遡ること養老3年(719年)、当時外交が盛んだった唐(現在の中国)の制度にならった法律「衣服令」(えぶくりょう)が定められました。
その中で初令天下百姓右襟(はつれい てんかひゃくしょう みぎえり)という一文があり、着物は右前にして着なさいと記されています。
唐という国はその時代、西方の異民族と常に国境を争っていました。
異民族は騎馬隊を組織して、弓を主な武器としていたので、弓を射やすい左前で衣服を着用していたと考えられています。
そこで唐の人たちは自分たちと異民族を区別するために逆の右前で服を着るようになり、それを真似した日本人も右前で着るようにしたそうです。
労働者にとって合理的な右前
いくら政府が着物は右前で着なさいと命令したとしても、実際に着る庶民が使いづらいと感じていたならば、ここまで右前という着方が一般的に定着することはなかったでしょう。
実は右前で着たほうが労働者にとって動きやすい格好だったため、正しい着方として一般化されたというふうにも言われています。
その日の生活が重要な庶民にとって、宗教や歴史的な背景よりも労働生産性が重要だったとするこの考え方が、個人的には一番有力であるように感じています。
着物は左前で着るという人
ここまで避けられている左前という着方ですが、実は一般的に右前と呼ぶ着物の着方を左前と呼ぶ人もいます。
特に京都で茶道をしている人たちの間で使われていて、ネットで「着物は右前で着るもの」と書かれているとすごく違和感があるようです。
言うまでもなく京都は千利休の時代から茶道がよく知られていますが、茶道にも表千家や裏千家などいくつかの流派が存在します。
茶道では着付けのお稽古もおこなうことから、一部の流派で一般的には右前と呼ばれる着方を左前と呼ぶようになったのかもしれません。※あくまで呼び方の話であって、着方は同じです。
その他男女の違いは?浴衣のときは?
最後に右前・左前について、よく誤解されていることをご紹介しておきます。
ここまで読めば着物の右前左前については完璧に理解できたと言えるでしょう。
洋服と違って男女ともに右前で着るもの
たまに和服と洋服を混同してしまい、女性は左前で着てしまったり、逆に洋服が男女逆だからということで男性が左前で着てしまったりすることがあります。
和服は洋服と異なり、男女ともに右前で着ることがルールになっているので注意しましょう。
ちなみに西欧ではもともと、高貴な女性は洋服を着せてもらう前提で作られているので、右利きの人が着せやすいように女性の洋服は左前で設計されているといわれています。
浴衣は着物とは違うので左前でもいい?
続いて夏の時期や旅館などで着る機会のある浴衣ですが、これも着物と同様に右前で着るのが正しい着方です。
そもそも浴衣も着物の一種で、平安時代には貴族の間で寝間着として利用されていた湯帷子(ゆかたびら)がその原型と言われています。
そこから江戸時代になると銭湯の普及によって、一般の人たちの間でも吸水性が高く風通しが良い上に管理の手間が掛からない木綿素材ということもあって、一気に広まっていきました。
そこから現代では花火大会や夏祭りなど、夏のイベント着として若者たちに愛されるようになっています。
そのようなルーツからもともと着物の一種ということもあり、右前で着るというルールは他の着物と同じなので、着付けのときは気をつけて着るようにしましょう。
はじめての着物はやっぱり不安という方は
ここまで着物の正しい着方やその歴史的な背景など、いろいろお伝えさせていただきましたが、やっぱり難しいという方は着付け師さんがいる着物レンタル屋さんに足を運んでみることをおすすめします。
ここでお話した着方のルール以外にも、着物には様々なルールや慣習があるので、日本の文化を学ぶという意味でも面白い体験になるでしょう。
着物レンタルあきでは、初心者の方にもわかりやすく着物についてお伝えしながら、素敵なデザインの着物をレンタルしてくれます。
是非ご興味のある方はお近くの店舗までお尋ねください。
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